うちの会社のパートが辞める

デザインだか絵だかの専門学校を出て、とりあえず東京に出れば何とかなる!みたいな発想で上京して、当然その手の仕事なんてなくて、「男性は色塗りが雑だから×」とか適当な理由で不採用んなって、警備員で食いつないでたけど、地元に戻って(戻されて?)ぷらぷらしてて、そんなエピソードが床屋を経由してうちの会社のパートのじいさんに伝わり、面接の運びとなったのだが(面接したのが俺)、遅刻してきて詫びの一言もなく、それに腹を立てた俺の反対を「人が足りないから」というシンプルな理由ではねのけて採用となり、現在24歳ながら8時間パートで、正社員への道も果てなく遠く(課長が社員にする気ゼロだった)、遅刻や無断欠勤も多く、日に日に太り、髪ものび、相撲の新弟子のようになっていたパートの青年が辞める運びとなった。
朝起きられないので、もっと朝遅い仕事にかえるんだそうである。作業人数が多いと「おれひとり休んでも大丈夫かな」と思ってしまうから、数人程度でやる仕事にかえるんだそうである。自分を変えるんではなく、職場を変わるんだそうである。書店員になるんだそうだ。
数年後に、できる仕事が何もなくなって、こいつはうちの会社に戻ってくるんじゃねぇかと思っている。上司も同じことを言っていた。
一応明るい材料も書いておくと、彼は絵が好きなんだそうである。休みの日には絵を書いているそうだ。月1でサークル的なイベント活動をしているとか何とか。本はジャンル問わず好きらしい(有給消化の「消化」が書けなかったので、本当かよと思うが)ので、書店員がちゃんとできるならば、彼もそのほうが幸せであろうとは思う。
何だか、昔の自分を見ているようで、もどかしいのではある。別に今が昔を見下せる高みだとは思わないが、相槌の打ち方や声の小ささや何やかんやが全て、どうにも昔の自分なのである。そして、少なくとも今の自分はそれを「よくない」とみなして排除してきたからこその今の自分なのであるから、自己肯定をするためには彼を否定せざるをえないのであり、そんな自分がまた醜かった。ついでにいえば、夢追い人に対する嫉妬も、ちょっとある。
彼にデザインや絵の才能があるかないかについては判断材料が足りない(作品を見たわけではないので)が、心をヘシ折ってでも社会に順応するなり、貧乏こじらせつつも夢追い人を続けるなり、そっち方面で成功するなり、またうちの会社やそれに近い場所でパートやるなり、新しい何かをつかんで、強く生きていってくださいと思った。そんなことより、おれは彼の辞めた穴を埋める別のパートさんを探さねばならぬのだ。