矯正歯科日記

診察券を入れるところに「診察券は必ずここに入れてください」と書かれており、「必ずここに」の部分に赤線がひいてある。
しかし受付のおねえさんに余裕のあるときには、「おあずかりしまーす」と、にこやかに手を差し出され、ぼくは誘惑に負けて診察券を彼女に手渡してしまうのだ。
「必ず」という言葉の重さについて、ぼくは考える。
これは理性と感情の問題である。「必ずここに入れよ」とある以上、私は診察券をそこに入れねばならぬ。たとえ受付のおねーさんがかわいらしく「おあずかりしまーす」と言おうとも、それを無視して診察券入れに入れねばならぬ。「必ず」と書かれたことは守らねばならぬ。本来はそうあるべきである。
しかしおねーさんはかわいい。申し出を断って、あるいは無視して、診察券を診察券入れに入れたとする。そのとき、おねーさんは何を思い、そしてどんな反応をするのか。浮かぶのは残酷な結末ばかりである。ぼくはネガティヴなのだ。
おねーさんに手渡しした場合だけ処置料が1.2倍になっていたりしないだろうか。そしてそれを指摘したら「『必ずここに』って書いてあるじゃないですかー」などと、いたずらっぽい笑みを浮かべたおねーさんに反論されでもしたら、ぼくには返す言葉がない。
というようなことを考えながら診察の順番を待った。