フィリピンパブ雑感

 「女遊び」という言葉がある。フィリピンパブという場所はまさにそれだと思った。
 ぼく以外の会社の人たちは、それぞれが程度にこそ差はあれ、フィリピン人のおねえさんの胸や尻やなんかを見たり触ったり、あるいはおねえさんを抱きしめたりするための強引な展開の模索に夢中で*1、そういうことに、金を出してもいいと思えるほど「楽しさ」を見出すことができるのなら、その「女遊び」は商売として成立するわけで、みんな楽しそうでよかった。
 ぼくがいちばん気持ちいいポジションは「『パーティでハジケている人と、それを囲み笑っている人』を外から眺める人」くらいの距離なので、基本的にじっとしていた*2。隣に座ってくれた女性がしきりに「退屈してるのではないか」とか気をつかってくれて、何だか申し訳なかった。それに、彼女にもつまらない思いをさせているのであろうことは容易に見て取れたが、そもそも金払ってまで店の女性を気遣って無理してテンション上げるのも何か違うような気もしていた。
 先ほども書いたが、ぼく以外の会社の人は要するに公然セクハラを狙ってギラギラギラギラしながら、カラオケとハイテンショントークを楽しんでいた。そしてぼくは、それを求めていなかった。ぼくだけ、ほしいものがちがったのだ。
 例えば、頭をなでたかった。手だけつないで、別に何もせずにゆっくりしていたかった。目が合ったらにっこりしあえれば、それでよかった*3
 ぼくがほしかったものは、むしろ、公然セクハラを狙うギラギラしたみんな以上に、最低な欲望なのだろうと思った。ぼくがほしがっているものは、ほんとうは、相手がだれでもよくてはいけないもののはずだからだ。むろんセクハラ的なあれやこれだって、特定の異性とのみすべきなのかもしれない。しかし男はそれを我慢できないなんてことは本当に本当なわけだし、ぼくは彼ら以上に最低なことに、だれとでもいいから恋モドキをしたい、と感じていたのだ。無意識とはいえ。
 はじめての経験だったので、周囲の人々が気をつかってくれて、そのたびに嬉しい反面やるせない気持ちになって、いつもどおりだ。ここはぼくのいる場所じゃない気がした。
 ゆっくり、かわいいおねえさんと手をつないで、映画か何かを見て、ふと横を見たら相手もこっちを見てて、にっこりして、みたいなそういうの。かわいいおねえさんならだれでもいいって考えが自分の中にあるのは、冷静に考えると残念でキモチワルイことだ。
 で、ぼくの横にいたおねえさんとは本当にうちとけられなかった。このような葛藤に限らず、ぼくの考えを伝えるのは相手が日本人であっても困難なことのほうが多いため、ぼくは早々に諦めてしまった。(それでもずっと手を握ってきてくれてはいた。)
 でも、誘われたらまた行きそうなあいまいな自分がどうにもこうにも。もうだめだこりゃ。

*1:店のこわいおじさんが奥でにらんでおり、そう無茶はできないのだ

*2:あと鼻の頭にニキビができて痛く、そればかり気にしていた

*3:童貞臭いとか、言うなら言えばいいとは思う。まぁ、キモいといえばキモいだろうってのは分かる