昔話

 中学生のころの話だ。
 中3の秋、生徒会役員選挙があった。時期の都合から、3年生は投票はしても立候補はできない。立候補者はみんな2年や1年。3年生からすればどうでもいい行事である。
 3年はみんなダラダラ「早く終わらないかなー」と思いながら、演説なんぞ聞き流していた。そりゃそうだよな。目の前でくだらない演説をぶっている後輩が生徒会に入ろうが落ちようが、卒業していく3年には関係ないのだから。
 ぼくは違った。よいこだったので、真面目に演説を聞いて、真面目に候補者から適任と思われる人間を選んだ。
 生徒会長の立候補者はひとりだった。この場合、演説を聴いたのち、信任投票の形をとる。立候補者であるところの後輩は、裏表のある嫌な男だった。外面はいいが、腹黒く打算的なところがあった。生徒会長への立候補も、内申書のためであることが明白だった。
 演説内容にも納得できない部分がいくつかあった。演説の最後に、彼は応援団の真似事をした。「フレー、フレー、○○中!」カスみたいなパフォーマンスだなと思った。
 不信任の×印をつけて用紙を提出した。当時のぼくが中3でありながら中2病を患っていた*1ことも、もちろん原因のひとつではあるが、当時のぼくなりによくよく考えての投票である。

 そんなことは完全に忘れた次の日、放課後に3年全員が体育館に呼ばれた。そして学年主任から説教を受けた。説教の内容は以下のようなものである。
「昨日の生徒会長の信任投票で、全校生徒のうちで不信任が1票だけみつかった。3年生の票だ。一生懸命やるといっている後輩を不信任とは何事だ!」
 驚愕である。たった1票の不信任票で、3年全員に説教。とすれば何のための選挙なのか。民主主義とは何か。ちなみに学年主任は社会教師である。
 そして教師は、その票が悪ふざけで不信任にされたものと思い込んでいたのである。ぼくは、当時のぼくなりに真面目に演説を聴き、真面目に考えた結果として不信任票を投じたというのに。そしてぼくの不信任票以外、つまり全ての信任票のきっと半数以上、いや4分の3以上が不真面目な信任票だというのに、ぼくは3年全員を巻き込んで叱られたのである。
 社会と自分の壁は、このころにはもうできていた、という話。「真面目にやれ!」と言われるわりには、真面目にやると損をするのである。このころからぼくは何事にも一生懸命になれないで生きているのである。

*1:今も患っている